中途半端に右膝を曲げると痛い。歩くとか、走る行為って、絶対膝曲げるでしょ。でもこれが痛いのよ。だから膝を曲げられない。
ではどうするか、
体を左に傾けて走る・歩くをすればできるのよ!
って事に気づく。
あぁー屈伸したい。思いっきり膝の屈伸がしたい。出来るけど、今の私が出来る屈伸というのは、完全に曲げるか、完全に伸ばすかの2値。0か1。デジタル。
その間を楽しめない!!
15キロ地点ではもはや50メートル走って、うずくまり、50メートル歩く。普通にうずくまると膝が痛いから、両手を先に地面につけてからしゃがむ。
ばかじゃね、おれ?なにやってんだろ、お金払ってさ。
50メートル走ってうずくまり、50メートル歩くを1サイクルとすれば、
1キロで10サイクル
10キロで100サイクル
残り27キロで270サイクル!!
無理っしょ、無理だよ、こりゃ無理だ。
後ろを振り返れば、ランナーがあまりいない。スタート当初はいっぱいでオナラも出来ないほどだったのに、ガラガラだ。
プップカプップカ余裕だよ。
後ろのランナーはみんなまだ走れるから私は抜かれていくいっぽう。規定時間は5時間だそうだ。
孤独だね。
なんの為に走ってんだー?なんて考えていたら、
背中に文章を掲げて走っている女性を発見。
その文章は
「This is for you, Dad」
ぱぱ、あなたのために走ります。
といったところか。その女性の走り方は明らかにもう参っている感じである。
でも頑張って走ってる。父のために。
あーなんかすごいなーって純粋に尊敬しました。
この頃からでしょうか。歩道で見てる人が私を応援してくれるようになったのは。
私の背中にはローマ字でファーストネームが書かれたゼッケンが貼ってある。
それをみて
「アーレ M! アーレ M!」(アーレはフランス語で、行けって意味。Mは私の名前)って応援してくれます。
感動です。フランス人が、しょうもない走りをしている私を応援してくれるんです。
私は片手を上げてそれに答えました。そして走れるときは走り出しました。
どうにかこうにか20キロまではこれました。リタイアを考えましたが、ここまで来れば後は半分!
完走できるか分からんが、行ける所まで頑張ろうと決めました。
なぜそう思ったか。
途中、あるお爺さんを追い越しました。
そのお爺さんは、両手で松葉杖をついて走っていました。
えー!って心の中で叫びましたよ。めっちゃ大変ジャン!なんでそこまでして頑張るの?しかもお爺ちゃんだよ。
目頭が熱くなる。
オレ、甘かったわ。ちょっと膝が痛いくらい、ちょっとオナラがでるくらい、
なんだってんだ!!!
(実際は膝はめちゃ痛いし、オナラもすげー出てるが)
今私が追い抜いたお爺さんは、多分、規定時間の5時間では走れないだろう。でもだ、でも頑張って欲しい。休憩しながらでいいから是非完走してもらいたい。
もうみんな仲間だよ。パルだよパル!ジワ〜。
なんて、走りながらガスを抜きながら一人で勝手に熱くなる。
現時点で20キロ。ここから先が地獄。マラソン初心者の私には生き地獄だよ。
でも、つらい事だけではありませんでした。
道路でうずくまり、立ち上がろうとした時、後ろから走ってきたおじさんランナーが立ち止まって手を貸してくれた。
ああ、ありがとう。
見物人が、「アーレ M! アーレ M!」と励ましてくれる。
それに答えて走り出すと、なんとその見物人も横で走ってくれた。
ありがとう。
うずくまっていると、あるランナーが
「大丈夫か?後からまた走ればいい」
と励ましてくれる。
走りだしてそのランナーを追い越して、またうずくまっていると、
「ゆっくりきなよ」
ってまた声をかけてくれる。
ありがとう。
おばさんランナーは、走りながら食べる用のお菓子をくれた。
ありがとう。
多分、トップランナー達は、このような経験ってしないんだろうな。
底辺のランナーだからこそ、皆さんの気遣いに本当に感謝できる気がする。
あ、これって人生も同じかな。私、お金の有難さがめちゃ分かる。あ、涙が・・・。
途中、
何度リタイアしようと考えたことか。
何度子供のチャリを強奪しようと考えたことか。
何度ローラーブレードを強奪しようと考えたことか。
何度タクシーを捕まえようかと考えたことか。
何度セーヌ川に身を投じようと考えたことか。
でも少しばかり期待している私の妻や友人がいるので、諦めることが出来ませんでした。
なにより悔しいでしょ。
30キロ地点周辺で、私を探して待っていてくれた妻と会う事が出来ました。
下はその写真。手と口にはオレンジです。後ろはエッフェル塔

元気をもらいました。
妻よ、ゴールで待ってろよ。
この時点でのタイムは忘れましたが、規定の5時間でゴールは絶対無理でした。
ここからゴールまでは、特に書くことはありません。
ただ膝が痛い。つらい。それだけ。
残り12キロに必要なものは、
気合・努力・根性のみ。
時間オーバーで失格でもいいから完走する。
もうそれだけです。
結局6時間45分かかって42キロを完走。
もらえないと思っていたメダルも貰えました。

応援してくださった方々、一緒に走ってくれた方々へ。
皆様のおかげで完走することができました。
ありがとうございました。
おわり
あとがき
ラベル:パリマラソン